Smog Check
旧車・キャブ車の車検での排ガス調整の傾向と対策
普段は勇ましいSOLEX・WEBER、車検場ではビクビクひやひや
車検の期限が近づくと誰しも憂鬱な気分になりますが、旧車をユーザ車検で通すとなると特に気になるのが排ガス検査への対応ではないでしょうか。平成10年度の規制前に製造された4サイクル4輪自動車の場合、アイドリング時の排気ガスが以下の基準値を下回っている必要があります。
CO(一酸化炭素) 4.5%以下
HC(炭化水素) 1,200 ppm以下
車検を前にしてあなたの車が今、運よくこの値をクリアしているようであれば、それ以上手を触れずにそのままそっと検査コースに持ち込みましょう。点火時期の調整なり、キャブの調整なりは、検査に合格した後で心ゆくまで整備するのが正解です。というのも、旧車、特に昭和50年以前のいわゆる未対策車は製造時の規制値が緩慢であったことに加え、経年劣化でキャブや燃焼環境の状態も良くないために、なかなか値が安定しません。テスタ屋さんで何とか調整してもらってコースに持ち込んでも、コースでの測定ではもう基準値を超えてしまっているということも度々です。また、そもそもテスタ屋さんも忙しいのでこうした手間のかかる旧車の調整は決して歓迎されません。以前、事前に調整したはずの510が検査に落ちてしまい、車検場近くのテスタ屋さんに駆け込んだことがります。お世話になったのはかなり年配の気さくな感じの整備士さんでしたがエンジンフードを開けてSUキャブを見つけると思わず”うわ、こりゃ最悪の奴だあ。。”と口走っていました。ちなみにこのテスタ屋さんはそんなことをいいつつも最後まで根気よく調整に苦心していただいて何とか無事合格することができました。その節はありがとうございました。
話を戻して、では運悪く基準値を超えてしまっている場合はどのように調整すればいいのでしょうか。ソレックスやSUなどの場合、非常に微妙な調整になってくるのでテスタがないと、なかなか難しいのも事実ですが、だからといってテスタがあれば誰でも簡単に調整できるかというと、そういうものでもありません。闇雲にいじっていてもどんどんこじれていきます。テスタの利用方法、調達方法は後で考えるとして、ここでは規制対象となっているCOやHCの発生の理屈を理解して、その性質に沿って調整方法、対処方法を考えてみましょう。
COとHC
本来ガソリンは充分な空気(空気中の酸素)のある状態で完全燃焼するとCO2(二酸化炭素)とH2O(水蒸気)に変化します。化学記号からも察しがつくように、CO(一酸化炭素)はガソリンに比べて空気(空気中の酸素)の量が不十分なときに不完全燃焼状態から発生します。ということは充分な空気の供給を行い完全燃焼しやすい環境をつくれればCOの発生は防ぐことができるはずです。つまり混合ガスのガソリンが薄ければ薄いほど発生しにくくすることができることになります。
ではHCの方はどうでしょうか。HC(炭化水素、Hydro carbon)は未燃焼ガスとも言われて、ようするに燃えそこなった混合ガスがそのまま排出されたものです。混合ガスが濃すぎれば、燃えきらずに排出されるHCが増えることになりますし、うす過ぎれば失火の確率が高くなりやはりHCは増加します。濃すぎず、薄すぎずの理想的な混合ガスの空気と燃料の比率(理論空燃比)は重量費で燃料1:空気14.7と言われていますが、燃料を使いきる(燃やしきる)経済空燃比は1:16~17と言われています。未燃焼ガスを排出しない、という観点で考えた場合、後者の経済空燃比(Best Economy A/F Ratio)付近をねらうのがよさそうです。
またHCは燃えそこないですから点火プラグの性能、燃焼室の状態により火、火炎伝播不良によっても増加します。排気バルブおよびバルブシートの機密不足、また、高回転時にあわせたバルブタイミングのオーバラップや点火タイミングの調整、変更なども、混合ガスの一部が燃えきらないまま排出されてしまうことになるためにHCの発生増加につながります。特にオーバラップの激しいハイカムを組んだり、バルブタイミングを変更しているハイチューンエンジンで調整が困難を極めるのはこのためです。
まとめると、
■ 混合ガスの燃料を薄めにすればCOを下げることができるが、下げすぎると失火や火炎伝播の不良からHCが増加し始める。
■ HCを下げるにはガスが燃えきる環境を整えることが必要。混合ガスの濃さは理論空燃比よりもやや薄め、燃料の燃え残りがもっとも少なくなる経済空燃比付近をねらう。HCは燃えそこないの燃料そのものなので点火状態、点火タイミング、排気バルブタイミング、燃焼温度などもHC濃度に影響を与える。
以上のポイントを踏まえて、実践的なキャブのアイドル調整の手順を考えてみます。
① 事前準備(基本環境): バキュームホースなどからのエア吸い込み、ツインキャブなどの場合はスロットルの同調など事前に点検・調整。バルブタイミング、カムシャフト変更している場合はノーマルに戻す。点火時期も指定のタイミングに調整しておく。
② 事前準備(点火系): 点火プラグは良好なものに交換。できれば、ロータ、デスビキャップ、ハイテンションコードなども点検、交換をおこない最善の点火環境を確保しておく。
③ ガスの混合比調整: ガスの濃さは失火の発生しない範囲、回転が不安定とならない範囲でアイドルアジャストスクリュー等で薄め(Lean)に絞っていく。この過程でエンジンの回転が上がってくるようであれば、回転数を適宜基準レベルまで下げる。
④ エンジン回転数調整(CO対策): 以上をやってもCOが高い場合:回転が不安定とならない範囲(HCが基準内にある範囲)でスロットルアジャストでさらに回転数を下げていく。それでも下がらない場合には点火時期を変更して数値の変化を見ながら調整してみる。
⑤ エンジン回転数調整(HC対策): 以上をやってもHCが高い場合:COが基準値を超えない範囲で回転を上げて、アイドリング、点火状態を安定させることでHCを下げる。それでも下がらない場合には点火時期を変更して数値の変化を見ながら調整してみる。
整備書や本来の設計に基づけば③までの調整が適切になされれば排ガスは規制値をクリアできるはずです。また、③までの調整手順は性能を最大限に引き出す上での本来のキャブ調整と同じ手順にほかなりません。が、やはり古い車は一筋縄ではいかない場合が多いので、④⑤のような調整を必要とすることになります。この辺の調整になるとアイドリングを不自然に低く(高く)しなければならなかったり、アイドリング時にあわせた点火タイミングとすることで中・高回転でのパワーがスポイルされてしまう結果となることもあります。それでも、これらの調整作業でうまく基準に収まればよしとしてあげてください。
以上の作業を行っても基準値に入らない場合には燃焼室、バルブの機密不良やキャブレタの不調の可能性もあります。何しろ例えば昭和50年の規制前の車などはもう製造から30年以上の月日が経過している訳ですから、HW的な問題、障害を改善しないとどうにもならない、というケースもありえます。なお、未確認ですが冒頭のテスタ屋さんのアドバイスによると、COに関してはエキパイからエア(2次空気)を取り込ませると排気管の中で空気(酸素)と化学反応してCO2となり若干値が下がることがあるんだよな、とのことです。
また、冒頭に書きましたように、旧車の燃焼環境はいろいろな事情からとても気まぐれに変化します。極端な話、ひとふかししただけで、もう全く違う値になってしまうこともあります。粘り強くポイントを探っていく根気が必要ですが、うまくブレークスルーできればどんどん値が下がる局面は必ずやってきます。事実上の変数は混合比(アイドルアジャストスクリュー)、アイドリング回転(スロットルアジャストスクリュー)、点火タイミング(デスビシャフト)が主なものですから、上のポイント、理屈をイメージしながらスウィートスポットを追求してみてください。
HC・COテスタ・アナライザー
ところで、上のような微妙な調整をつきつめていく上ではHC、COを計測できる環境が必要になってきます。新品のテスタは非常に高価(30万~)です。知り合いの整備工場など、つてのある方は頼み込んでみる、あてのない方は車検場周辺のテスタ屋さんにコースの検査時間終了後の比較的ひまな時に相談してみるなどの方法が考えられます。運よく貸してもらうことができたときにはくれぐれも注意して取り扱いましょう。プローブを刺したままふかしたり、長時間さしっぱなしにするとフィルタやテスタ自身を痛めることになります。非常に大切な商売道具ですから細心の注意を払い厚意に報いるのが礼儀というものです。
また、比較的旧式のアナログ式のテスタであればオークションや中古機械商などでも流通していますので余裕のある方は買ってしまうという手もありです。オークションでは1~5万、OH済みの中古販売で5~10万くらいでしょうか。また、プロの方はデジタルへの買い替えが進んでいるので、工場の奥にアナログの中古が眠っている可能性もあります。うまくすれば安くゆずってもらえるかも知れません。公正ガス、フィルタなどはメーカに問い合わせればだいたい入手できるようです。多少の精度的な問題はあっても、最適値(最低値)を探る目的なら充分です。テスタがあると車検での調整はもとより、出力空燃比(Best Power A/F)、経済空燃比(Best economy A/F)といったポイントをHC、COの計測値から実証的に追求していくこともできます。
さて、どうしても環境がない場合について、検査コースを何度も通すという手もなくはないですが、数値的に開きが大きかったり、調整方向、方法についてのイメージができていない場合には何度やっても解決する保証はないので、やめておいたほうがいいでしょう。また、これも誰が言い始めたかも定かでない都市伝説ですし、決しておすすめしませんが人間テスタという荒業もあります。冒頭の理論のとおり、HCはガソリンそのものです。また、完全燃焼してCOが低下している場合には化学反応によりCO2と同時に水蒸気(H2O)が多く発生します。この傾向を利用してガソリンくささと湿気の具合をもとに濃度を判断しようというものです。実際の値は分からなくても基準値をクリアしていたときのガス臭と湿気を記憶しておいて、それに近くなっていればOKと。。。。みなさんご存知のとおりCO(一酸化炭素)は車内へ排気ガスを引き込んでの無理心中やら家庭内でも暖房器具、給湯器などの換気不良から死亡事故に至るガス中毒の定番中の定番ガスであり、空燃比不調のエンジンの排気ガスにはこの物質が大量に含まれていることをお忘れなく。